ほんもんぶつりゅうしゅう
2014年03月01日
賢治のヴァイオリン音楽会 ~世界に一つ、この日だけのコンサート~
二月十五日、京都佛立ミュージアムでは、世界にたった一つの特別なコンサートを開催いたしました。それは、宮沢賢治が所有したオリジナルのヴァイオリンを、宮澤家の子孫が演奏し、解説し、そして詩を朗読するというものです。そのステージに立ったのは、賢治の実弟、宮澤清六氏の孫である宮澤和樹さん(解説)、その奥様であるやよいさん(ピアノ演奏・朗読)、そして二人の愛娘で、現在同志社交響楽団で活躍中の香帆さん(ヴァイオリン演奏)です。

 この日は京都佛立ミュージアムの企画展『宮沢賢治と法華経展~雨ニモマケズとデクノボー』の開催期間中。第一部として正法寺・福岡清耀による展示解説が行われたあと、そのコンサートは始まりました。

 賢治は、文学・農業・科学・芸術といった様々な分野で活動しましたが、それらはすべて法華経への信仰の中に統一・止揚されるものであると考えていました。そしてまさにこの日、賢治の信仰と芸術が溶け合って、京都・北野の地に、温かく柔らかな音色が響きわたったのです。

 小さなミュージアムは五百名を超える来館者であふれかえり、テレビ局や新聞社といったメディアの大きな注目を集めました。来館者の大半は当宗信徒ではなく一般の来館者。今回の展示と演奏で、はじめて多くの人が賢治を通して法華経信仰というものに触れ、その思い、情熱に多くの人が共感しました。演奏は、『星めぐりの歌』(賢治作詞作曲)、賢治が詩をあてたドボルザークの『新世界』を含む十曲。途中、『永訣の朝』の朗読では来館者から涙がこぼれました。

 今回、賢治所有のヴァイオリンが岩手県を出たのは史上はじめてのこと。賢治が臨終の間際まで唱え続けた御題目への思い、そして大いなるご縁によって実現した、不思議で特別なコンサートでした。

「曾つてわれらの師父たちは乏しいながら可成楽しく生きてゐた
 そこには芸術も宗教もあった
 いまわれらにはただ労働が 生存があるばかりである
 宗教は疲れて近代科学に置換され然も科学は冷く暗い
 芸術はいまわれらを離れ然もわびしく堕落した
 いまやわれらは新たに正しき道を行き われらの美をば創らねばならぬ
                             宮沢賢治」